現在はエロゲーの体験版、製品版の感想、紹介をしています。
神出鬼没の占い師菜々実 なる (ななみ なる) CV:木村あやかアルラウネの化身。 “幻ビト(イデア)”。与えられた時間を趣味と目的に費やす情熱家。自作厨二小説を執筆するのが生き甲斐で、一度書き出すと時間を忘れて没頭してしまう。人間社会に溶け込もうとはせず、食い扶持を稼ぐために露天占いを開き、一人旅を続けている。特筆すべき性格は “ポジティブ” であること。もし自分以上の “ポジティブ” に出逢った場合、確実に興味の対象になるだろう。
人気沸騰中の国民的グラドル紫護 リノン (しのもり りのん) CV:桃井穂美ケルベロスの化身。 “幻ビト(イデア)”。“Re:non” として活躍する 『アーカイブスクエア』(通称 AS) の看板アイドル。現在、最もブレイクしているアイドルで、コンビニの雑誌の表紙を独占している。昼は挑発的な笑みで世界中の男を魅了し、夜は “現ビトクレアトル” としての貌を持つ。“稀ビトフール” を捕獲・研究する特殊組織に属し、戦闘面においても非常に優秀。どちらも本業だが、どちらも目的のために利用しているに過ぎない。あらゆる分野で隙がなく、業界人としても一個人としても “超最強” であると自負している。一切臆せず真正面から彼女に物申す輩が現れれば、戸惑いの一つも生まれるかもしれない。
メイドインラブ剣咲 ノエル (けんざき のえる) CV:青葉りんご赫をご主人と呼ぶベオウルフの “幻ビト(イデア)”。無気力で大雑把。 退廃的な雰囲気を漂わせている。基本的に静止している時間が最大の幸せであり、やるべき事は手短に終わらせる手際の良さも備えている。赫とは対照的に人間の文化にも精通しており、裏社会への顔も広い。極度の面倒臭がりだが、赫のこととなると異常な行動力を見せる。学生として学ぶのもすべては主人のため。時に浮気を疑い、人を雇って赫本人を拷問させるなど執着心は計り知れないが、すべては赫を想う一途な気持ちの表れ。ちなみに赫の浮気は、ほぼすべてノエルの勘違いである。
薫り高き鉄の処女九條 美月 (くじょう みつき) CV:桃井いちご心の仮面で武装した人間の少女。他者を拒絶し、笑わない。 無関心。 自己完結。攻撃的というよりも自分のテリトリーに踏み込ませない拒絶感を前面に出している。特定の個人を拒絶するわけではなく、すべての人間、そして世界を信じていない。九條グループの令嬢であり、生来持つ上品さ、気立ての良さから学園内での人気は高い。しかし彼女自身は過去に起きた事件を境に、何かに期待することを止めている。趣味は読書と紅茶。
忘却の岬の忘れ物ココロ CV:あじ秋刀魚旧市街の一角でたった一人、ひっそりと佇み続ける少女。その目的は不明だが、昼夜を問わず離れようとしないことには明確な理由があるらしい。喜怒哀楽の起伏が少なく、ろくな相槌も打てず、機械のような反応しか出来ない。例外として優真とだけはコミュニケーションが取れる。熱心につきまとう優真に対して、徐々に心を開き始めているように見える。
ポジティブ思考なお人好し水瀬 優真 (みなせ ゆうま) CV:はしもとゆう学園に通いながら “特殊清掃 (ライフ・ケア)” のバイトに勤しむ頑張り屋。それらすべてを “社長のため” で済ませてしまう、恩義に忠実なお人好しとも言える。ノリが軽く女好きだが、変態紳士な一面を相殺して余りある優しさは、問答無用で異性を惹き寄せる。絶賛溺愛中の妹の結衣と、保護者である今日子と3人で暮らしている。元気で温厚な好青年だが、“家族” に対する侮辱には異常なほどの反応をみせる。自他ともに認める熱狂的な Re:non ファン(信者)。
人間性を求める純朴な探求者赫 (あかし) CV:胸肩腎ファイヤドレイクの化身。 “幻ビト(イデア)”。“ナグルファルの夜” で放棄された旧市街に住む青年。人間性が希薄であり、故に些細なことにも興味が湧く。社会に溶け込むための手配はすべてノエルに任せており、自身は “幻ビトイデア” であることを隠しながら短期の仕事で収入を得ている。脳裏に焼き付いた記憶の正体を知るため、その手がかりを追っている。ハウスガーデニングが日課。
二人の主人公結果とは、常に最重視されて然るべきだ。勿論プロセスは結果を生むために重要だが、正しい行動を取っても、正しい結果が出るとは限らない。少なくとも彼らは、多数の屍を声、血と泥と汗に塗れながら此処までやってきた彼らは、嫌というほど思い知らされていただろう。結果だけが全てだということを。青年「・・・何故だ」青年「・・・何故、こんなことになってしまった」黒衣に彩られた青年は、オオアマナの花に囲まれた空の下で全てに絶望していた。青年「目を開けてくれ・・もう一度、私に笑いかけてくれないか」腕に抱かれた少女に向けて嘆願する。その祈りが届かないと知っていても・・・。少年「一個だけ分かるよ。あなたにとって、その人は掛け替えの無い存在だった」茫然自失で立ちすくむ青年の前には、彼よりも若さの残る幼い顔をした少年が膝をついていた。少年「こりゃ立ち上がれないなって一発でわかるぐらいの痛みはさ・・身体じゃなくて、心の深い部分にグサッて来て初めてわかるものだから」少年「結果なんて不服であたりまえ。いつだって終わってみれば、容赦ない結末だ。だから・・」少年の膝が起き上がり、再び両足が地を踏む。揺ぎ無い決意を持って。少年「後で涙を流すくらい、俺にも許されるかな」青年「キミの信念が、覚悟が、決断が、理解できないと言えばウソになる」少年「うん」青年「しかし私はこの世界を受け入れることができない。心が受け入れることを拒んでいるのだ」少年「うん」青年「だから私は、どんな理由があってもキミを許すことができない」少年「そっか・・・」絶望の淵に立った者を言葉で理性の範疇に留めることが不可能であることを少年は知っていた。自分にできることは持て余すほどの激情をその身で受け止めることだけ。少年「これは俺の尊敬する人の受け売りなんだけどさ・・・。世界中に現存する種族の中で感情で殺すのは人間だけなんだ。他のイキモノは全て、種の繁栄のための本能に縛られてる。だからこそ人間は・・・理由に値しない理由で、軽はずみに殺しちゃいけないんだ」青年の目に炎が宿る。彼自身は、己を突き動かす感情の正体に気づいていない。人いう種だけが持ちえる、自衛の目的で他者を攻撃する衝動。少年「あなたの理由が理由に値するかしないか、確かめてやるよ」少年はそう呟くと自嘲気味に笑った。この状況下においてどこか冷たい目をしている自分よりも、目の前にいる魔神のような男の方がよっぽど人間らしいではないか。その事実が少年にとっておかしくもあり、また自分も十分壊れてしまっているのだなと自覚させる材料になるのだった。青年「ぁぁぁぁああぁぁ・・・」青年は考えることを一切放棄し、原始的な破壊衝動に身を委ねた。死ねない理由を持つ者と生きる理由を失った者・・・両者の感情が身体を借りて衝突する。青年「私達が・・・何をしたというのだ」迎え撃った少年の刃は届かなかった。青年は冷静さを欠いてもなお命のやり取り、相手を殺すために必要な手順だけは忘れていなかった。少年「何もしていないよ。ただ・・・善人が必ずしも報われるわけじゃない。理不尽だけど、どうにもならないことなんだ」両者は動かない。いや、動けないのだ。少年は獲物に込める力を緩めれば青年に押し込まれてしまうだろう。青年にとってもそれは同じだった。青年「私は拒絶する。それが世界の真理だというのなら、全てを灰燼に帰す」青年の炎が腕だけではなく全身へと燃え移る。炎はオオアマナの花と少女の亡骸をもその渦の中に巻き込んでいく。消え行く命の火は空を焦がし、オーロラの瞬きさえも赤く染まっていった。
プロローグ×××がソレから手を放したのには、それなりの理由がある。一つは、遥かに予想を超えた情報の受け入れに耐えかねた脳が悲鳴をあげたことであり。もう一つは、この事実を受けて自分はどうするべきなのか・・正確にはどうしたいのかという決断に直面したからだった。――このままでは、今「視」たものが現実となる。×××は何不自由ないエデンの園にいるといって過言ではなかった。日々は充実し、危険とは無縁の世界で生き、穏やかに四季の移ろいを愉しんでいる。――自分以外に誰が防げるというのだ。出逢ってしまったものが禁断の果実と知りながら×××は行動に移らざるを得なかった。×××だけが持つ特別な力が、それを物語る。世界中でこの事に気づいているのは自分だけなのだと、それがわかってしまった。――とんでもない貧乏くじを引いたものだ。この時点で×××は捨てられない地獄の直行切符を手にし、覚悟を決めた。どの道、憐れな骸になるのならば、不幸になるイキモノは少ない方がいい。眠っているソレを、淀み、強張った顔つきで見下ろす。×××はソレに対して明確な恐怖を感じていた。将来有望という点では、最初の印象と別の意味で変わりは無いが、×××は如何せん「視」えすぎてしまう。――永久の休日とは、皮肉めいている。×××は創世記の冒頭を思い出し、独りごちた。神は六日間であらゆるものを創造し、七日目に休んだ。明日から始まる一週間に関わり、数奇な運命に翻弄される人々は無事に七日目を終えられるのだろうか。笑って肩を取り合えるのだろうか。――全ては、脇役である自分に掛かっている。×××は概ねの結末が「視」えている。その上で、自分が舞台の主役を飾れないこともわかっている。だが×××は誰にも知られず、歴史の影に消えていっても一向に構わないと思っていた。それが自分の役目であり、きっと自分の力はそのために与えられたのだ。×××は密かな企みを秘め、かざした手指の隙間からオーロラを睨み続けた。
中二病の女の子「あ、兄様」優真「ああ・・久しぶり・・あれから元気にしてたか?」「なにその、なんとなく疎遠になった幼馴染みたいなリアクション。同じ屋根の下で暮らしてるんだから、そうじゃないでしょ」優真「かわえーイキモノとの遭遇。服似合っててかわえー。雨模様かわえー。いつにも増してかわえー。」「もう。私を褒めるのより挨拶が先でしょ?」優真「おはようございます妹様」結衣「おはようございます兄様」優真「結衣っちは俺だけの天使」結衣「はいはい」そんな最愛で、この世でたった一人の妹様である結衣と朝の挨拶を交わし、“Re:non” として活躍する 『アーカイブスクエア』(通称 AS) の看板アイドルの話をした後、外出していい天気の中を歩く優真。蜂道揚げパンを袋の上からぱくり。ごくり。と三つ目だというのに勢いよく食べる。パンを咥えて走ると漫画なんかじゃイベント発生のサインになる――「きゃぅーる!」――ごっちんっ!!ってな感じに。なーんて。動物とかってオチ?にしてはオシャレな鳴き声だった。定飛行中のカラスは「きゃっぅーる」なんて絶対言わない。「うく、うくく・・・いじめ、虐待、幻覚、幻聴。儀式はよりどりみどり、私はゆとり・・・」いやいやいや、人だ。女の子だ。パンなんか咥えてる場合じゃない。優真「わるいっ、よそ見してましたっ!大丈夫ですか?」女の子「か、カドを曲がってぶつかるのは伝統芸・・・や、や・る・わ・ね。」道端でぶつかった女の子は、何故か優真を心配しながらも意味不明な事を言い続ける。やっぱり頭打ってよくない状態なのかな。女の子「やっぱり私、弱ってるのね。よそ見してたのは私もだから、お互い様だわ・・」優真「具合悪そうだ。ベンチで休みなよ、熱中症かもしれない」女の子「施しは結構。私はあらぶる九拾九(ツクモ)の思想を持つ秘密集団の渦(エースストライカー)優真「99円ショップのGメンをやってるって意味かな?」女の子「関わらないで。今のセリフに意味はないわ・・・まったくこれっぽっちも」優真「意味のない事を言って会話のキャッチボールを不成立に追い込むのって、意味が無くない?」女の子「クッフッフ・・・!それが狙い、だとしたら・・!?」だとしたら・・やっぱり意味ないからやめて欲しいかもしれない。唯一、意味があるとしたら、意味のないことを自覚して言ってる本人がそれだけで楽しそうという部分。これは地味に大きいと思った。しかし女の子はぽてん。と倒れこむ。目の前で行き倒れが発生。調子が悪いのかと思いきや、女の子のお腹が鳴いては腹を空かしているのだと優真は知る。なかなか自分の腹の音だと認めない女の子に持っていた揚げパンをちらつかせたりするも、限界がきたのか目の前の出した揚げパンを一飲み。優真はそんな腹を空かした女の子、菜々実 なる (ななみ なる)を食事に誘い、行き先の店にいるマスターの時折と女の子と優真の三人で楽しく過ごすのであった。
かつて人間だったもの探し物はあきらめた時にこそ見つかるものだ。人間の誰かが言った言葉らしいのだが、あれはよく言ったものである。現に私はそれを主として行動していなかったにも関わらず、依頼された物を発見するに至った。赫「見つけたぞ恵子。帰ろう、私はキミを見つけたら連れて帰るよう親方から言付かっている」恵子は私の言葉に反応しない。それは致し方のない事だ。私と恵子の関係は、親方と違って特別なものではない。馴染みの店で偶然顔を合わせることになったに過ぎず、店主である親方と比べるには無理がある。かと言って日頃世話になっている親方の頼みを無視することもできない。受けた恩は返さなければならない。人間というのはそういうものらしい。赫「キミにもキミの都合があるのだろう。私も申し訳ないと思っている。本当だ」恵子の鋭利なクチバシが何度つついても、その炭化した肉は崩れない。赫の言葉に返事をするかのように鳴く恵子。本当にわかっているのだろうか。赫「食事なら親方がいつも用意しているだろう?それでは満足できないのだろうか?死んでしまった人間が好物だというなら、趣味が悪い」親方の手から飛び立った理由はそれかとも思ったが、すぐさま否定する。恵子に用意されている食事は屋台の残り物とはいえ、十分な量があった。恵子は私の思惑を知ってか知らずか、食事を止めて私の肩に飛び乗った。赫「ようやく帰る気になってくれたようで助かるよ。親方もきっと喜ぶ。」私がこれまで得た知識の中では、鳥とは本来、空を飛んで移動する生物だと認識している。しかし恵子は私の肩から飛び去る気配はない。早く家に連れて行けと催促しているのかもしれない。私が現在使用している言葉は人間にしか通じないはずなのだが、何故か恵子は私の言葉を理解しているように感じる。それは私が人間よりも恵子に親近感を覚えているせいなのかもしれない。この世界では毎年規則的に推移する気温の変化や天候の移り変わりがある。人間はそれを四つに分け、それぞれに名前を付けた。今はもっとも気温の高い夏に分類される。太陽の光に照らされたアスファルト。ゆらゆらとうごめく蜃気楼が道の先まで続いている。ぼんやりと揺れる景色の向こうから、こちらに向かって歩いてくる人間の姿を視界に捕らえた。赫「珍しい人間もいるものだな」優真「もしかして俺に言いましたか?それとも足元にいる、そちらさん?赫「・・・・」人間と少し会話をし、いや無駄話というべきか。そんな事をした後瓦礫に転がるアスファルトの上を真っ直ぐ歩き、しばらくしたところでふと思い当たる。先ほどすれ違った少年。あのまま進んだとなると、その先に人間の死体が転がっているはずだ。私にとって興味の湧く対象ではなかったので、そのまま放置したのだが、やはりアレは普通の人間ならば何かしらのアクションを示すところではないだろうか。そんな人間のアクションが私の興味の対象となるかと言えばそうでもない。・・・人間は死を必ず迎える存在。では、死ねば人間になるのだろうか・・。――。優真「・・・はぁ、びっくりだなぁ」喫茶店でなるとマスター共に楽しいひと時を過ごした後に、秘密の聖域に向かう途中、先ほどの人とすれ違った。優真「こんなところに来るのは俺くらいだと思っていたけど、珍しいこともあるもんだなぁ」好奇心は猫をも殺すというけど、俺に死ぬ予定はない。生きられるうちは、死ぬ気で生きる。今まで喰い散らかしたイキモノの命を粗末にしないために。これは社長の持論で。今は俺の持論でもある。自殺スケジュールなんてものを組むのは、人生を悲観した弱虫か、本当に支えてくれる人ひとりいなかった、かわいそうな人だけ。優真「・・・」だとしたら・・これはどちらに当てはまるのだろうか。ひどい。どういう状態だ。生死は確定的に明らか。人を呼ばなきゃ。――瞬時に脳をい駆け巡る思考を、すべて破棄。背けた目をもう一度、戻し、観る。観察という意味合いで観る。人体の所々が黒い。微細な粒子が集まって、いかにも鉱石めている。優真「炭・・・みたいだな」普通じゃない。俺の知らない特殊な病気に掛かった末路だろうか。しかし、これってAS9が配られる前に起きていたウイルス騒ぎと同じ症状・・?何しろ近づきすぎるのはよくないだろう。優真「匿名で掛けないと会社に迷惑が掛かるかも・・・街のほうに出てる前に公衆電話あったっけ」なるべく早く彼女をしかるべき場所に眠らせてやりたいけど、状況が状況だ。他殺。自殺。俺は、そういうもののプロじゃないし、彼女の死を悼むほど事態を把握できていない。だから考えず、目的に向かって走るだけだ。
亡霊(ファントム)多くの人通りが織りなす東雲新市街駅前。私と恵子もその中に混じりながら、恵子の飼い主である親方を探す。赫「確かこのアタリにあると聞いていたのだが」親方がいつも仕事の材料を仕入れる店。私は今その店を探している。何でも親方が懇意にしているこんにゃく屋が駅前にあるとのことらしいのだが、仕事を始める前に、いつもその店に寄っているのだと親方は話していた。私が親方の行方について思案していると、目の前を若い人間の男二人があわただしく横切っていった。何かがいるらしい。まさか親方のことだろうか。気になった赫は男達の後をついていくことにした。そこにはリポーターの女が街の噂の情報をいち早くゲットするコーナーを直撃すると、人の群れ、その中心にカメラに向かってマイクを握っている女性がいた。噂の死神について調べにきたと話しており、通行人の男性にマイクが向けられる。先ほど私の前を横切った男達だ。「あれ、なんだっけ。確か名前あったよなー」「お前忘れたのかよ。亡霊(ファントム)だろ」「その亡霊(ファントム)について詳しく教えてもらえませんか?」私は胸の奥に生まれた疼きを抑える。通行人の人間達は次々と語り始めていく。前からある伝説であり、元々は別だった話が一つになったもの。闇にまぎれて人間の命を奪いにくる亡霊というもので、今でもいるらしいと。なんでもそいつが目撃された現場には必ず死体が残されており、30年前ほどの戦前から続いている噂だという。少なくとも30年間は人を殺してまわっているという存在。女性リポーターは、やはり亡霊(ファントム)の正体は人ならざる者であり、私達の想像を遥かに超えた存在なのかもしれないと語り始める。それもそうだ。普通の人間が30年間も人を殺しまわって捕まらないというのは、現時的ではない。ならばと、女性リポーターのような意見になるのが一般的だろう。「ここで他の方々の意見も聞いてみましょう。あなたは亡霊(ファントム)がいると思いますか?」マイクを向けられた人間は、質問に対して真剣に答える者は少なく、誤魔化すように笑う者が多かった。いるかもしれない、そんなバカげた存在は信じない。ニュアンスは違えど総括するとその二種類が大半を占めていた。その場を後にし、新市街にまで足を伸ばしたのだが、結果的にそれは徒労だと知ることになった。結局親方を見つけたのはあきらめて住まいにしている廃倉庫に戻ろうとしていた時だった。
兎のお面廃倉庫に戻っては、手紙と小瓶を見つけて小瓶の中身を飲んだ赫。気づけば意識を失っており、気づいたときには目の前に兎のお面をした人がいた。「待った?」赫「いや、上出来だ」「俺はな、政治家って生き物が大嫌いなんだ。どうしてだかわかるか?」赫「分からない。一般的には好かれていないと聞いたことはあるのだが」政治家に恨みを持った兎は次々と政治家に対する愚痴を言い始める。あいつらには覚悟も自覚も無い。自分だけは安全だと思ってやがる事が気に食わない。この世界のルールが奪い合いだということに気づいていないのに腹が立つ。ウサギのお面をつけた男は私の腕に何かの器具を装着させながら政治家に対しての不満を露にする。政治家が不幸な目にあったお話を自らし始めては、仮面に覆われて表情から判断はできないが、笑い声が聞こえてくる。この男にとって政治家の不運は喜ばしいことなのだろう。「まあ、奪って生きる奴は奪われる覚悟を持っとけってことだな」赫「なるほど、覚えておこう。勉強になった」この世界では対価を支払って何かを得る事が常識だ。男の言わんとしていることも理解できなくはない。赫はそんな話をするために、わざわざこんな手の込んだ事をしたのかと兎のお面を被った男に聞くと、どうやら兎は私の交友関係に目的があるのだという。親方に紹介された前の仕事で一緒にいた女の情報が知りたい。ということなので、俺は洗いざらい吐いた。拷問道具を用意するまでもなく女について話しては、兎もアッサリと赫の身動きを封じるための道具を外し、その場を後にした。
Re:non様駅ナカの商業スペースに設置されていた公衆電話から通報を終え、通りに出てきた。すぐに熱気で額に汗が浮いてくる。夏。太陽が頭上で大暴れするシーズン。恐らく死体の身元を探るうちに喫茶店へも連絡がいくだろう。マスターがショックを受けて寝込んだりしなければいいけど。容疑者と決め付けるのはよくないが、怪しい人物としてあの人の特徴も伝えておいた。やるべきことはやった。俺みたいな一般人に尽くせるベストだろう。「――え!?ちょいケータイ見てみ、Re:non様が街頭ビジョンジャックしてんだってさ!」「マジ?・・・あ、ホントだ。店舗前にゲリラ出現?生Re:non見たーい!ねぇねぇ行こう?」歩行者のたったそれだけの会話がざわめきを呼び、波紋のように広がった。一目、生Re:nonを拝もうと野次馬根性丸出しの皆様方。街頭ビジョンの設置された建物の下が見る間に人で満たされていく。店舗前の道路にはみ出さんばかりの人であふれている。いったい何が始まるというんだろうか。スタッフ達の通行人への呼びかけが聞こえてくる。優真「コレって何の列ですか?並んだらRe:non様が嫁に来てくれるんですか?」「違う違う、そこの看板読めばわかるからっ!」怒られた。最早戦場。言われたとおりにしよう。とりあえず人の隙間を縫うように歩き、立て看板を覗くことにした。「夏の熱射病を吹き飛ばせキャンペーン開催!!あのRe:non様が蜂蜜揚げパンを無料でお配りします!お買い上げレシートをお持ちのお客様で、お並び頂いた全員にもれなく大サービス!さらになんと!抽選で5名様までRe:nonに食べさせてもらえる権利が与えられます!※当店で1500円以上お買い物をして頂いたレシートが必要です。※数に限りがありますので、時間内に終了する場合があります。予めご了承ください。<蜂蜜揚げパン普及委員会名誉会長--紫護 リノン>」優真「・・・なるほど、理解。コレは素晴らしいイベントだぞ。早速、適当な物を買ってくるか。」警備員とスタッフに言われるがまま列に並ぶ。抽選に漏れたであろうファンたちの怨嗟と絶望の声が夏の快晴に吸い込まれていく。嘆きの声とともに情報が入ってくる。どうやらこれで当たったのは3人目らしい。偶然にも全員が女性のようだ。リノン「じー」優真「あれ・・・?」リノン「抽選のがらがらをまわす力もない?代わりにわたしが回す?」ン?と首を傾げる大人気アイドル様。特に意識していないのかもしれないが、物凄い様になっている。優真「俺の番?きてたんだ。失礼しました、考え事をしてたもので・・。よし。赤玉が出ればいいんだよな・・・っ!」なるからもらった運命の輪のタロット名刺を握り締める。結果は白で残念賞で終わった。しかし1度というルールを破り、優真はもう一度回すが白で外れる。その一連を見たスタッフたちに取り押さえられるかと思いきや、優真はその手を払い、リノンに詰め寄る。優真「コレってホントに当たり入ってるのか?」リノン「・・・くすっ。何を言うかと思えばすごい言いがかり。」優真「当たってるのは全員女性。ありえるか?並んでる男女の比率男9:女1にも関わらずだぜ?」俺が訴えているのが平等性だとわかってもらえたのか、あからさまに困惑していた別のひとたちが、俺の声に耳を傾ける。優真「・・・俺はそういうのは好きじゃない。誰も確かめないなら俺がやる。どうなんだ、Re:non様!」職務を思い出したガードマンに対し、Re:non様は待ったを掛ける。リノン「当たりは、入っているわ」優真「俺に誓ってか?」リノン「もう一度だけ言うわ。よく聞きなさい」リノン「当たりは、入っていないわ」場が凍りついた。リノン「え・・・今、わたし・・・」リノン「ッ!なんだって言うのよっ!」最初に、景色がブレた。次に、一瞬の吐き気。収まると次に襲ってきたのは違和感だった。優真「・・・ぐっ!?」背中を打って、呼吸ができない。ぎっしり発砲スチロールの詰まったゴミ袋に着地したらしい。ていうか、ここ何処?つい数秒前まで、駅前のイベント会場にいたんだけど。彼女が俺をココまで運んだのだろう。髪のセットが少しだけ崩れていたからわかる。リノン「時間が無いから一方的に話すけど、細工をしてもらったのよ。抽選で当たる5人は全員囮役よ。」優真「ぜ・・・んいん・・・げほっ」リノン「ご褒美はそう簡単にあげない主義なの。それに、夢は叶わないから楽しいという考えもあるでしょ?囮役は全員女の子を選んだわ。でも、安心して。私はアブノーマルじゃないから」Re:non様は、常備しているらしきサインペンのキャップを外し、優真の手のひらをペンが走る。リノン「今日の夜でいいわ、必ず掛けなさい。独りの時よ。Re:しなかった時は超最強な罰を受けてもらうわ」優真「掛ける・・?いてて・・・」手をひらひら振って優雅にご退場するRe:non様。サクラなんか使っちゃダメだろといおうとしたのだが、もう遅かった。シャレにならない展開だった、あいててて。手のひらに書かれたサインなのか、数字なのか分からないものを見ながら何を意味するのか考えるが、解読不能なのであきらめることにした。ふと着信がなったので、仕事用の携帯を手に取ると、社長からお仕事の電話がきた。ちょうど駅前の駐車場にバンを回してあるので、着替えを用意してあるから、必要なものを受け取ったら現地で向かいたまえ・・・とのことだった。依頼に関しては簡単な見積もりを取るだけで、いつもしている仕事と何ら変わりないものだった。詳細に関してはメールするとのことだ。優真「了解です。全ては社長の為に」社長「いい心がけだ、頑張りたまえよ安月給」優真「・・・さて、ひとっ走りするか」
ゴキゲンオー赫「・・・・」決まった回答がないのが人間、と言うのが答えなのかもしれない。だとすれば、私は何を道標にすればいいのだろうか。「ゴキゲンオー」人間についての考察はまたの機会にしよう。私にはやるべきことがあるのだから。私は予定通り、喫茶店カフェ・ド・メントレに向けて歩き出した。はずだったのだが――赫「・・・何だ?」前に踏み出した身体に反作用して後ろから引っ張る力を感じては、何が起きたのかを確かめるために後ろを振り返ると、人間の子供が小さな手で上着の裾をつかみながら私を見上げていた。ゴキゲンオーというので、私は即座に頭の中にある、これまで記憶した言葉の辞典を開く。だが少女の口にした単語に該当するものは引っかからない。しかし私は慌てることはなかった。赫「はい。」対人会話の中で、もっとも初歩的な言葉の一つであると同時に、汎用性の高い優れた言葉。ニュアンスの違いで肯定にも疑問にもなる。私はきわめて抑揚を抑え、どちらともとれるような曖昧な調子で言った。少女「はい、じゃないよ。ごあいさつの言葉はゴキゲンオーだよ」赫「・・・それはこの国の言葉なのだろうか?」少女「およよ?ゴキゲンオーはゴキゲンオーだよ?」赫「そうなのか。覚えておくとしよう」また新しい言葉に遭遇した。後でノエルに聞いてみよう。所で私に何か用でもあるのかと、未だに上着の裾を掴んでいる少女に問うと、迷子であることを赫に話し始める。みつきちゃんという人物とお散歩をしていたら、沢山の人がうじゃうじゃで、ぐるぐるバビョーンって飛ばされちゃってゴロゴロ転がってたら、いつの間にかひとりぼっちになっちゃって困っているとのことだった。ひとりぼっちじゃゴハンも食べられないよ。そんな事を私に言ってるこの少女に何処にいくのかと聞かれて正直に答えるのだが、私もついていくと言って言う事を聞かない様子。警察にこの少女を届けるべきか迷ったが、彼らとかかわりを持つのはノエルに禁じられており、しぶしぶ少女も喫茶店につれていくことにした。喫茶店から出ても尚、私についてくる少女に調子を狂わされては、これ以上この少女といると面倒なことに巻き込んでしまうかもしれないと思い、我ながら空にUFOが浮いているなどと少女に言っては、足に蓄えた力を解放し、上方に向かい飛ぶ。少女はUFOに私が連れ去られてしまったのかと勘違いしながらも、何処かへ去っていったのを見て、私は再び地に足を着いては旧市街に向かって歩き出した
占い師優真「ぷあぁあ~~~!水うめぇっ!ミネラルウォーターうめぇっ!」臨時の仕事でほどよく疲れた身体に水分補給。これ大事。今日は見積もりと簡単清掃だけだったから肉体労働レベルは低かったけど・・。思い出すと結構キツイものだったような気もする。嗅覚を殺してる俺でも、あの臭いは完全には遮断できなかったし、気を抜いたが最後、半端な仕事になってしまう。そんな仕事帰りの優真は人の気配を感じては、そちらに視線を向ける。なる「クッフッフ~。再び出逢ったな我欲の放浪者よ。運命には抗えない、何故なら運命の方が私を必要としているからだ。・・・可愛い邪鬼眼使いだと思った?残念!なるちゃんでした!――ってなるちゃんは充分かわいいよ!失礼なっ」優真「なるちゃん・・・キミってやつは・・」なるの笑顔もこの時ばかりはいたたまれなかった。一人でボケて一人で突っ込み、俺の哀れみの目もなんのその。とても健気に生きているなるちゃんであった。そんななるちゃんの占いを受けさせてもらうと、真実の口(ボッカ・デラ・ベリタ)という占いをしてくれるそうなので、是非ともしてもらおうとするのだが、どうやら真実の口への挑戦は勇気が試されるらしい。もしかしたら想像を絶する痛みを伴うのかもしれない・・。と思っていたのだが覚悟は完了していることを伝えると、なるは優真の指先を口で咥え始める。恥らう美少女がそこにいるのだが、なんて不思議な占いなんだといって同様を隠す優真であった。占いが終わったのか、なるは口元から指を放すも、結果的に何も分からずに終わってしまったのであった。
メイドインラブ旧市街に足を踏み入れると車の音や人の声などが遮断され、住む世界の違いをより鮮明に浮かび上がらせる。本来の機能を失い廃れた旧市街の空気を吸うと、肩の荷が降りたような感覚を覚える。それは私がまだ人間の立っている場所から離れている証拠である。ここで生活を始めてから7年ほどの時間が経過してもなお、私はまだ人間に遠く及ばない。子供一人、思うように扱えないようでは、環境に適応するにはまだまだ時間がかかりそうだ。倉庫の扉を開ける。南京錠は外されており、中に誰かがいることを示唆していた。さてどう話を切り出すべきか。私は羽織っていた上着を脱ぎながら、今日の出来事について考える。赫「ただいま」「おかえりなさい」赫「順調か?」ノエル「ええ、そりゃもう」ノエルは人間社会についての諜報活動に真剣だった。「マツナカ・アウトー!」とかノエルは「まっちゃんそらいかんで」と聞きなれない言語を言っている。しかし人間のことをもっと詳しく知るために勉強しているノエルを邪魔してはいけないな。用件は手短に済ませよう。赫「ノエル、少し話をしてもいいだろうか」ノエル「それよりも、何か忘れていませんか?」ノエルは視線をテレビに向けたまま口を動かす。赫「ああ、すまない。ノエル、愛している」ノエル「私もですよ」ノエルは視線を寄越しながら私の言葉に応えた。いつも思うこの謎のやりとりは必要なのだろうかと問えば、愛とは人間性を理解する上で避けて通れない道であり、形だけでも習慣づけていけば、きっと私達もいつか愛を理解することができるでしょうという。優しく微笑むノエル。彼女が言うのであれば間違いはない。去年から人間の学園に通いだしたことも、この世界に適応するため始めたことだ。私よりも遥かに人間について詳しい。ノエル「今日は随分遅かったんですね。確か新市街の喫茶店に行くといってた気がしますけど」赫「ああ、少しばかり面倒な事態に巻き込まれた」面倒?ノエルの顔が曇る。私はすぐに言葉を続けて、兎の仮面に出会ったことや、小さな少女の話をノエルにした。まあそんなことがあったのと言っては、私に喉が渇いている前提で、麦茶のコップを私に差し出すが、そのコップを受け取ることができなかった。ドリンクの一件に加え、悪戯な笑みを浮かべるノエルに、まさかとは思うが・・と私自身、何故かそう思ってしまった。「んっしょ・・・んっしょ・・」倉庫の扉がゆっくりと開き、来訪者の姿を捉えた私の視線はそこから動かせなくなった。少女「あ、あかしくん!」赫「ど、どうしてキミがここにいる・・!?」少女「えへへ、ゴキゲンオー♪」人間ではない私の場合、人生と言って差し支えないのか不明だが、仮にそれが許されるのであれば人生で一番驚きを隠せない瞬間だった。ノエル「う・・・」ああ。手元からコップを落として固まっているノエルを見て、私は覚悟した。もしかしたら、今日の仕事はキャンセルかもしれない・・。ノエル「う、浮気通り越して隠し子ですかっ!?」
独立不撓の掃除屋社長優真「おーし、できたできたっ」夜の献立は合い挽きハンバーグをメインに、余り物の漬物やらサラダやらコロッケなんかを出してテーブルを彩る。懲りすぎず、凝らなさ過ぎない。それが数年間変わらない、我が家の食卓。結衣が優真の所へやってきては、その料理を褒めるのだが、結衣はどこか不機嫌そうな感じで接してくるため、怒っているのかと聞けば、今日の出来事を全て結衣に知られていたのであった。生Re:non様のイベントに参加したこと。プライベートで手のひらにサインを書いてもらった事。我が妹ながら恐ろしいが、怒らせなければ天使だ。どうやら真剣にご機嫌ナナメなようなので、それ以上結衣の機嫌を損ねないよう、放っておくことにした。下の事務所から鳴り響いてきたのは、こんな時間にあってはならないビルの解体作業みたいな轟音。音は一度切り止んでいたが、食卓の汁物は波打ってお椀からこぼれた。物騒な世の中。用心して見にいくとする。クレーム口調で事務所に降りていくと、いつもより視点が高く感じられた。優真「え・・?」ものの数秒で俺の身長が伸びたわけではない。単純に床に金属的な板状のナニカが敷かれていて、それを踏んでいただけだった。事務所の入口が開けっぴろげになっている。そこにあるはずのモノがないことに気づいた。だとするなら、俺が踏んでいるのは・・・。事務所のアルミドアで間違いなかった。今日子「愉快愉快ー。片付け屋(クリアランサー)にケンカを売るのがどういうことか、身をもって知りたまえー」優真「ドアやっつけたの!?ねぇ今やっつけたのドアだよね!?開いたり閉まったりするだけの無機物さえ退治しちゃう姿に痺れる、憧れるーッ!!」今日子「めろんめろ~ん」俺は歓喜のあまり王の凱旋を拍手喝采で迎える国民のように飛び跳ねた。というか、何故ドアを壊したのだろうかと気になり僕は今日子さんに問うと、吸血鬼もとい蚊がうろちょろしていたらしく、事務所のドアに止まって退かないのでそれでドアごと破壊したのだという。蚊を相手にドアをも壊す、ファニーでスパイシーな人。今日子「さっきの蚊が完全につぶれていたか確認しておきたまえ」優真「確認する意味は?」今日子「私が潰したんだ。私が奪ったんだ。私の意志で終わらせておいて、償う気は無い・・だったら一つだろう」優真「了解です」限りある生命を摘むなら責任を持つ、仕事柄、今日子さんが大切にするスタイルであり、俺にも色濃く根付いている。ドアにもし蚊の残骸があったら、俺は今日子さんの飲む夕飯のスープに入れる。食べるために殺す。それは生命を奪う上で最もシンプルな理由。これが間違いなら、ほぼ全ての動物は設計ミスだ。全ての命は、循環する。
人間らしさ少女「うわぁー♪このソファふっかふかだよぉー♪ぼいーんぼいーん♪」ノエル「・・・っち」いけない。ノエルの機嫌が隠しきれないほど悪化している。どうにかしなければ、今日の仕事に遅れることは避けられない。赫「ノエル、これは違うんだ」ノエル「出たっ!浮気したダンナの言い訳人気ランキングナンバーワン!」赫「? よく分からないが、お前の思っていることとは違う」ノエル「ええそうでしょうね。まさか私も既に子供まで作っているとは思いませんでしたよ。あの使えないくそ探偵、後でボコボコにしないと」赫「だから違うといっているだろう。私は浮気などしていないし、この子供は私の子供ではない」ノエル「だったら何なんですか?えっ!?まさか・・・そんな!?」赫「そんな?」ノエル「この子供が浮気相手・・!?私がご主人の性癖を見誤っていたというのですか・・!?」赫「話を聞いてくれ」ノエルに子供の事について浮気相手でもなければ、ただの見知らぬ少女であることを話しては何とか納得してもらったものの、確かに私は少女を振り切ったはずだった。可能性としては、別の道を通った過程で再度見つけられてしまったのかもしれない。この少女をどうするべきか考えたが、私達のことを誰かに話される事は避けたく思い、その理由としてはこの使用している倉庫の所有権などなく勝手に使っているだけであること。親方などの一部例外はあるのだがあくまで例外だ。ノエルが少女について質問をしているが、自分の名前すら分からないと答える。みつきちゃんは、自分の事を記憶喪失といっていたらしく、本当に記憶喪失なのかと問えばうそはついていないと頑なにいい続ける。ならばとノエルは、少女の頭についている髪飾りを見て、少女の名前を「ひまわり」と名づけた。妙なめぐり合わせというべきか、その髪飾りのモチーフになっている花を、私は育てている。倉庫の隅にある向日葵は少女のとは違い、まだ花を咲かせていないが。嵐山の親方がそろそろ来ている頃なので、ひまわりとノエルを連れて食物摂取による栄養補給、もとい食事の時間だ。暗闇の中で親方の屋台が光を発しているのを見て、ノエルとひまわりと私、そして親方と恵子が揃い、静けさに満ちた夜の下に、不釣合いな声が響き渡る。普段とは違う夕食の雰囲気に違和感を覚えながらも、きっと人間の食事とはこのようなものなのだろうと想像して悪くは無いと思った。
忘却の岬の忘れ物優真「――――――」旧市街で焼きついた生々しい光景がふと蘇った。気にしていないとはいえ、数時間前の出来事だ。体験としての記憶は完全に忘れることはできない。一度思い出すと、あの後、どういうふうに対処されたのか気になりだした。時計を確認しては、夜風を浴びるついでに旧市街に向かう。到着するも、倒れそうで倒れない斜めになった建物や、未整備で割れっぱなしの道路はいつ見てもひどい。こんなんだから、当然、人の気配もない。稀にヘンなのが住み着いてるって噂も聞くけど、俺も似たようなものだ。勝手に秘密基地として開拓中の場所もあるし。優真「・・・」と。足が止まった。人のいないこの場所に存在する環境音は、虫の音と波音くらいのはずなのに・・。今のなんとも人間的な音楽的な響きはなんだろう?優真「こっちか・・?」見捨てられた旧市街の中でも、誰もが寄り付かなさそうな、実際、初めて目にした空間を歌声が支配していた。ハミング。誰に聴かせるわけでもなく感情のまま自然に口ずさむソレは、今はあまり耳にしなくなった賛美歌のようだった。???「・・・・」優真「あー」失態。気づかれて、ジトッと見られる。足音を立てたつもりはないが、気づかれるときは気づかれる。優真「続けて続けて、俺の事はほら、空気だと思っていいからさ」???「・・・・」少女は無言のまま、首を傾げる。優真も少女からの返事が無いので、まねして首を傾げると、少女は俺の事を「ママ?」と呼び始めた。形がそっくりだからという理由で、男である俺をママと呼ぶのもそれはどうなのかと突っ込みたい所である。俺は自己紹介を始めるのだが、少女は名乗らずただ無言か一言で済ませるだけ。とはいえ、これほどの美少女にこの旧市街で出会えたのだから、今日子さんへの御土産話をするために、美少女の写真を撮ったのだが「消して」と言われてしまい、尚且つ許してくれなさそうな雰囲気だったので、その場を去ることにした。去ったあと後に賛美歌を再び歌い始めたのか、聴こえてくる。あの美少女は一体なんだったのか。夢か?夢って事で済ませておこう。
恐怖の赤謎の美少女と出会ってからというもの、せっかくここまできたのだからと、気分を変えてどこかに行くことにした。メットをかぶり、原付に跨って、目的地へ到着し、99あると言われる階段を登る。しかし、俺が来るときは毎回100か101ある。これはちょっとした怪談になるのだろうか。開けた視界は、俺の頑張りを祝福していた。日の出まではまだ時間がある。俺の秘密の聖域の一つ「薫る新緑の絶景高台」。抜群に空気がうまい、自分の住む街を一望するにはうってつけの場所だ。ハッキリと目視できる、繁栄と衰退の境界線。限りなく住みやすさを追求した現代都市と、見捨てられ朽ち果てた地域。人々は、現実的に暮らすことが困難になった場所を完全になかったものにした。地球が住めなくなったら月に引越し、ってわけにもいかないだろうに、いつまでも放置し続けるのだろうか。優真「7年・・経つんだよなぁ・・」悲劇、ナグルファルの夜。地が割れ、天が裂け、海が荒れ、人が崩れた、一度切りの大災厄。破壊の限りを尽くしておいて、原因はまったくの不明。絶望のドン底に叩き落しておいてそれっきり音沙汰なしだ。ナグルファルの夜によって世界は混乱した。さらに、原因不明のウイルスで世界は混沌した。国は何もしなかった。いや、できなかった。中枢機能があたまりまえに停止したからだ。緊急時に対策不足ではなく、対策不能な未曾有の大規模災厄だった。そんな中、救いの手を差し伸べたのだが、医療関係の大企業「Archive Square社(アーカイブスクエア)」だ。ASは精製したワクチンAS9(エーエスナイン)を無償で配り、衣食住の問題解決にも全力を注いだ。今の形になるまでには5年近く掛かったが、ASはブレずに世界のために尽力し続けた。今では政府に匹敵する影響力を持っているが、権力に笠を着ることもなく、医療以外にも様々な分野の技術向上に貢献し、福祉関係への力も強めている。みんな大好きAS、広告塔はもちろんRe:non様。その辺も抜かりないぜAS!いつか旧市街をも直すことを、オーロラに願う優真。本当の悲劇は、祈りなんか通じない。・・オーロラどころか、視界全体が赤く変化している。優真「???」瞬きをしても変わらない。視界の赤「れろっ」優真「へ」首筋に熱くねっとりとした感触。時間が止まったように感じられた。やや思考が固まって、一歩下がる。優真「―――ッ!?」絶句。心臓が跳ね、思考が完全に停止した。視界の赤「死臭がしたのにな」ザラザラとした猫のような舌で首筋を舐めていた視界の赤は、違う。と言ってしばらく会話した後に軽快でいて気軽そうに、自由落下した。ポカンと開いた口が、しばらくふさがらなかった。
探し物ノエルが学園に行き、私はひまわりと共に新市街に一度出てみることにした。ひまわりは目を輝かせながら辺りの商店を見渡す。ひまわり「ほんとになんでもいいの?」赫「何でもだと語幣がある。多額の金銭が必要なものや持ち運ぶのに不便な物は遠慮してほしい」ひまわり「おかしは?」赫「常識的な範囲であれば問題ない」ひまわり「りょーかいです!あとおかしとあかしくんってお名前似てるよね」赫「一字違いではあるが私の身体は砂糖で構成されていないし甘くなどない」僅か数秒で自らが言い出したことに対し興味をなくしていた。やはり子供というのは一般的な成人に比べて対応が難しい。私は目的を遂行するため懐から数枚の紙幣を取り出してひまわりに手渡す。ひまわりに少しやることがあると言い、再び合流するときはこの場所にて、ということでひまわりと別れた。ひまわりをわざわざこうして手放すのにも、言うまでも無いだろうが一度逸れた人間と再び再会できるかもしれないという事だ。私はその辺で少しうろうろしていると、占い師と名乗る女性が話しかけてきたりもした。私が探しているものをズバリ言い当ててみようということで、その女性の言葉に耳を傾けていると、根拠のないものだと思っていた占いも意外と当たるものなのかもしれないと、私は思った。占い師によれば、裏路地の方に私の差がしている者があるといわれたので、半信半疑でそこへ向かうことにした。裏通りに立ち並ぶビルの隙間は人の従来をまったく感じさせない。ゴミ袋が無造作に置かれた様子はどちらかと言えば旧市街に近い印象を受けた。しかし、ひまわりと合流する場所からそう遠くへ離れてしまうのもどうかと思い、私は来た道を戻り始めたのだが、背後から何かが倒れたような音と男の声が私を止めた。声の発生源には三人の人間が立っていた。穏やかな雰囲気ではなく、二人がもう一人を問い詰めているように見えた。どうやら私には関係がなさそうだ。しかし予定通りに倉庫に戻ろうと目線を切る直前、私の目にはあるものを捉えた。足取りは重かったが、見てみぬフリはできそうにもない。争う人間達に近づくと、責められている人間は女であることがわかった。???「勘違いなさらないでください。あなたの顔がそうみえただけです」山吹色の髪をした少女は、男二人に気圧されることもなく凛々しい風格を纏っていた。私の脳裏にスイセンの花が浮かび上がった。???「アナタの行為は社会的ルールから逸脱している分、オランウータンの子供にも劣ります。動物ですら群れでのルールを守っているのですから」社会的ルール。私の好きな言葉だった。二人の男達が私の存在に気づいていないようなので、わかるようにわざと足音を立てながら声をかける。ただそこに咲いているタンポポの花がキミたちに踏まれてしまいそうだったもので、私が育てているものではないが、せっかく咲いているのだ。何も踏みつける必要は・・。と私が喋っている最中だというのに、男は私の言葉が終わるのを待たずに、邪魔されたことに腹を立てたのか殴りかかった。私は途中で途切れたセリフを復唱するが、再び殴られる。古くから伝わる言葉で、二度あることは三度あると言われるものがあるのを思い出した。同じく引き合いに出されることも多いもので仏の顔も三度までというのもあったりもする。仏でも三度無法なことをされると腹を立てるという意味合いに変わりないので、だから私は若者に肉体的な罰を与えることにした。罰を与えたあと、彼らは私に謝罪し、何処かへいってしまった。???「どうして・・」赫「ん・・。」振り返ると、一人残された少女は鋭い眼光で私を見据えていた。???「どうして私を助けたのですか」手に届く範囲だけでも、自分に何かできるのなら行動したいと思うのはおかしい事だろうかと言えば、普通は見てみぬふりをするのが人間であると女性は答える。他人に指摘されるようでは私もまだ勉強が足りない。どうしてこんな所にいたのだろうと問えば、人を探しているという。同じように私も人を探し続け居る。長年探し続けているが、未だに見つけられていない。お互い探し物が見つかるといいなと私は女性にそう言って、細い路地を引き返す。しかし道の先に立つ人影がそれを制した。ひまわり「あー!あかしくんいた!」買い物を終えたひまわりが大きな飴をぶんぶんと振っていた。ひまわり「もー!ちゃんとまちあわせ場所にいてくれなきゃ困っちゃうよ!あかしくんがまいごになっちゃったと思っていっぱい探したんだよ!」赫「すまない。だが迷子はキミだ」仕方なくひまわりの元へ歩みよろうとするが、その脇をすりぬける一つの影があった。???「見つけた・・」赫「見つけた?一体何を?」今この場に現れたのはひまわりであって、彼女の探し物では・・まさか・・。ある一つの仮説が浮かび上がった。仮説は瞬く間にひまわりの言葉によって真実となった。ひまわり「あ!みつきちゃん!ゴキゲンオー♪」赫「ではキミが・・キミの名はみつきなのか?」返ってきた言葉は回答でも黙秘でもなく、予想だにしない一言だった。美月「あなたが赫ですか?」彼女は私の沈黙を肯定と捉えたようで、私に向かってこういった。美月「お話があります。幻ビト(イデア)であるあなたに。」美月と名乗る人間は、私の探し物に関する話があるといった。一旦場所を移動して、そして美月の話を聞くことにした。その前に私が本当に幻ビト(イデア)であるかどうかの証拠を見せては、納得してくれたようで話を進め始める。私のことを知る人間がいて、その人からの依頼を私に伝えるためにここまできたのだという。その依頼は、ひまわりを数日間預かって欲しいというものだった。何故?という理由に対し、美月は沈黙した。では自分なりに考察してみよう。まず人間と幻ビト(イデア)の違い。人間は脆弱だ。私達に比べて外的な衝撃にも弱く、あろうことか自ら命を絶つ場合もある。人間と言う種全体で捉えれば話は別だが、個人としてはあまりにも頼りがいがないといわざるを得ない。その点、幻ビト(イデア)は固体としての強靭さは人間よりも勝っている。身体能力に関しても、個体差はあれど人間に劣ることはまずない。ノエルが見ていたテレビ番組のひとつで、世界中から選りすぐられた人間が走力を競う催しが行われていた。仮に、幻ビト(イデア)が混じっていれば人間は手も足もでないことだろう。だがどこまでいってもここは人間が支配している世界だ。私達が存在していたもうひとつの世界、幻創界(ユートピア)とは勝手が違う。最大のデメリットは人間社会においてどこまでいっても私達は不純物であることである。ひまわりを預けたい理由を問わない事にしたが、それはそれなりの対価を用意しているのならという話で私は会話を進める。ならばと彼女はひまわりを預ける対価として、私の追い求めていた亡霊(ファントム)についての話をし始める。少しでもちょっとした手がかりを得られるならばと思い、私は美月のひまわりを一週間程度面倒を見るという依頼を受け、その対価として亡霊(ファントム)に対する情報を得るという事になった。美月が用件を済まし、その場を去ろうとするとノエルが学園から帰ってきては、私を見て再び「浮気した、ノエル、悲しい・・・」と言い始める。赫「私は浮気などしていないし、これからもしない。私を信じてほしい」何度目だろうか、このやりとりは。美月に人前でよくもそのような行為ができますねと言われてしまった。
秘密基地日が落ちるまでまだ時間がある。時計を確認して秘密基地へと足を向けることにした。7年前の夜(ナグルファル)の地殻変動で沈んだビル群の一つを拝借し、秘密基地に改造する計画は順調だ。缶詰類のストックはあるし、衣服も何着か置いてあって寝泊りも可能。女の子を連れ込んであんなことやこんなことをする為のムフフ空間になる日は近い。一人でいる時間。独りだけの空間。孤独とは違う。優真「みんななにしてるのかなぁ」意味もなく立ち上がって、窓枠から静まり返った夕暮れの水面を眺める。優真「そ、そうだ、あの子に会いに行かなきゃ。そうだったそうだった。」調子が狂う。考えるのは、だから嫌なんだ。携帯を片手に、壁のように続いていくフェンスに沿って歩いていく。突き出したアスファルトに少女が立っているのが見える。今回は深夜ではないので、時間的にいないかと思ったが杞憂だった。優真「わぁ!偶然っ!えー、ウソみたい。俺たちやっぱり目に見えない何かで繋がってるのかな?どう思う?」???「・・・」偶然を装っての出会い作戦は失敗。優真「昨日は初対面で色々とごめんね。よかったら、お話しない?俺、人と話すの大好きなんだ」???「・・・誰とでも好きなだけ話してくればいい・・」優真「今、俺の眼中にあるのは君だけだよ」???「水瀬優真は人と話すのが好き」優真「おっ、おおお。名前覚えていてくれたなんて感激だなぁ。キミはなんていうの?」???「ココロはココロ・・・」やっと謎の美少女の名前を聞くことができて嬉しく思う優間。そして、突っ込まざるを得ないことが一つ。ココロの格好だ。さすがに目が泳ぐときがあるのだが、ココロは特に見られることに対しても気にしているということもないので、じっくり見る・・・というわけにもいかないか。しばらくの間、前あったときよりもココロとより親しくなったような気がする。沢山会話をするのだが、少し気になったことがある。会話の中で出てくるココロの「ママ」という言葉。こんな少女を独り置き去りにする母親は一体、今どうしているのだろうかと優真は密かに思うのであった。
黒の塊人の多い場所を選べ・・・今更ながら無理な相談である。旧市街に向けて歩くにつれ、人の姿は見かけなくなっていった。当然だ、この先は旧市街へと続いているのだから。高架下をくぐるように通されたトンネルの内部からはかろうじて通電しているが、いくつかの照明は壊れているのか役目を果たしていない。薄暗い空間が真っ直ぐ伸びている。ひまわり「ねぇねぇ、今日のごはんもおでん?」赫「そうだが、キミは駄菓子とパンを食べていただろう。夕食はいらないと思っていたのだが」ひまわり「そんなことないよっ!ひまわりはそだちざかりなんだから、一杯食べないと大きくなれないんだよっ!」赫「そういうものなのだろうか」ひまわり「そういうものなのです!」固体の体積を鑑みれば成人よりも食物を摂取する量は少ないはずだ。幼い子供に関わらずこれだけの食欲があるのは珍しい例なのかもしれない。食事の時間に遅れるとノエルの機嫌を損なってしまうため、出口に向けて再び歩き出すことにした。ふと、視界のなかに黒い霧のようなものが移りこんだ。赫「ん・・誰か歩いてきている。」珍しいこともある。丁度このトンネルは旧市街と新市街の境に位置している。つまり前方の人影は旧市街からやってきたことになる。滅多にないことだがありえない話ではない。先日も旧市街でたむろしていた若者達に遭遇したばかり。しかしひまわりが「オバケ」がいる。そういって前方に視線を向けたまま、私の上着を裾を引っ張るので、私も同じくひまわりの視線に合わせる。人ではない。判断するのに時間は必要なかった。かろうじて人の形を象っているが決して人間ではない似て非なるもの・・。液体気体固体、そのどれとも判別がつかない黒の塊。人間で言えば顔に当たる部分から浮かび上がる赤色の双眸。???「ォォォォォォオオオオオ・・・」けたたましい咆哮が反響する。言葉にしなくとも伝わる思い、とやらが人間の間には存在すると聞いたことがある。なるほど、姿は曖昧で表情はなくとも不気味に光る二つの球体から感情を読み取ることは容易だった。私はひまわりを安全圏に誘導し、コミュニケーションをとることのできない攻撃的なオバケとやらと対峙する事となるのであった。
禁忌ココロとのやり取りで体内環境が清浄化されたらしく、頭はすっかり醒めてポジティブな状態だ。これぞまさしく美少女パワー。優真「だいぶいい時間だな。疲れて帰ってくる社長のために夕飯の準備しなくきゃ」仕込みをしていた屋台はなくなっていた。もしかしたら営業は別の場所でするのかもしれない。原付に跨ろうとして違和感に気づく。きたときに俺が停めたのと微妙に位置が違う。渦巻くいやな予感を抑えながら注意深く観察すると、メットインの開け口がひしゃげているのが分かった。バールなどを用いたのだろう。強引な手口で、ボルトで固定されている部分からボッキリいかれてる。メットインに何を入れていたか覚えていないが、肝心のメットは無事なのでいいだろう。優真「はぁ・・心無い悪戯だなぁ。他にも何かされていないか点検しないと、運転するのは怖いな」目立った損傷はシートだけで、ブレーキ、ライト、タイヤ、ともに正常らしく、様子を見ながら運転して帰れそうだ。まぁいいやで済ませて帰ろうかと思ったが、転がってきた缶が脚にあたってとまった事でそうも言ってられなくなった。優真「犯人さんだったら懲らしめちゃおっと」数歩。なんて声をかけようか考えながら近づいたところで気づいた。見慣れないものが落ちているな、と思った。優真「腕の不法投棄は見過ごせないなぁ・・」???「ごっそさん。やっぱ缶こーひーはオーロラブレンドが一番だぜ」原付に悪戯したのは、やっぱりこの人らしい。他人のものを許可なく飲むのは軽犯罪だからやめたほうがいいと男性に忠告するも、反省していないのか「うるさい」の一言で片付けられてしまった。挙句には転がっていた腕のことまで「見無かった事にしろ」と無茶なことを言い始める。男性は優真を気に食わなくなったのか、いきなり攻撃をし始めてきたのでこちらも身を守るために反撃せざるを得ない。言葉は通じるが、腕が生えたりと人間ではないような形になる化け物のような存在。そんな男性と対峙するが、自分の愛用していたスクーターを自身にぶつけられてしまい、体の骨が何本か折れてしまった。次に手の平。肩の骨。容赦ない男の攻撃が続く。男性に死ねよと言われるが、それに反応するように優真はつぶやく優真「生きなきゃ。誓ったんだ、死ぬ気で・・楽しんで生きるって誓ったんだ・・」しかし現実はそうもいかないらしい。いよいよもって、さようならの時間というわけだ。死をリアルに感じたからだろうか、死の間際には音が遮断されるものなのか、世界から音が消えた。俺を殺そうとしているXIIと呼ばれる男も、失われた音に戸惑っている。優真「あ・・・」そんなXIIの背後を存在に気づく。そして合図のようにトントンと、その可愛らしい耳を叩いた。なんとかなるかもしれない。そう思い、俺は後頭部を地面にぴったりと押し付ける。XII「ん・・戻っ・・」這い寄る影「おめでとぉーーッッ!」爆発物が破裂するような轟音をゼロ距離で受けたXIIは耳を押さえたまま踊り狂った。這い寄る影「おめでとう、音のある世界。さようなら、無を楽しむ器官」俺は耳を覆っていた手を放す。もちろん、俺を助けてくれた人の声を聞く為だ。なる「でも鼓膜は再生するっていうし、私って優しいか・し・ら?」優真「なんとかなるもんだな、なるちゃん」なる「話はあとよ、盟友。よいしょっと・・」軽々・・とはいかないにしろ、90kgの車体をなんでもないような顔でひっくり返したのには驚いた。なるは血を吐いて嗤う俺を何も言わずに背負うと、地面を蹴った。なるの背中は温かくて少し眠くなったが、あっという間に地面に降ろされていた。俺はなるに、逃げろといったのだがその場から去ろうともせず、俺の傍にいる。明滅。意識が飛びそうになる。視界が徐々に暗くなっていく。そんななるは、俺を助けられると言うのだが、救急車を呼ぶこともなければひたすら会話をし始める。なる「私達は禁忌に触れる。何が飛び出すかわからない。天使か、はたまた悪魔か。あなたは私の所有物に成り果てるかもしれない。逆かもしれない。私を一生恨むかもしれない。せっかく拾った命を否定し、自ら断つかもしれない。いいえ、自殺すらできないかもしれない。」なる「答えは二つに一つ。こっち側に来るの?来ないの?」なるは、こんな時にまでふざけたり、ウソをつく子じゃない。何らかの方法を用いて、きわめて高確率で俺を救える。救った後の状態までは補償できない。だからオススメはできない、そう言っているのだ。ああもうホント優しくて、かわいいなぁ。優真「連れてってよ。気が済むまで、連れまして・・道連れにしてよ・・・。俺は・・どんなに不自由な身体だって、欠陥を背負ったって、生き抜いてやる・・・生きなきゃ、ダメなんだ・・!」なる「・・・・この菜々実なるが、なんともならない優真くんを、なんとかなるようにしてあげるわ。さぁ、時間が無いわ、私に倣(なら)って」優真「そのムチムチおっぱいを、揉めばいいんすかね・・?」なる「心臓を覆う視認できない「非物質的仮想心臓(スピリット)」に手のひらを集中させて」優真「このあとは・・・どうすれば?」なる「「非物質的仮想心臓(スピリット)」を繋ぐわ」菜々実 なる。自らをアルラウネの化身と自ら名乗った彼女と一つになる。手の平から打ち込むように出現したソレは光となって俺の胸に吸い込まれていった。なるも同じように。
女子力黒い塊の視線は何もない壁へと向けられている。視界に黒い塊を捉えたまま壁の辺りを確認するが、やはり何の変哲もないただのコンクリートで塗り固められた壁面だった。相変わらず私の呼びかけに反応する様子もなく、その姿は無防備な姿を晒しているようにしか見えない。ゆっくりと足を踏み出す、それでも相手に反応はなかった。いけるだろうか。私は仕掛ける事を決め右手に力を込める。???「靴紐がほどけてるぞー!」突如として背後から発せられた声がトンネル内に響き渡り、私は無意識的に自分の靴を確認してしまった。しかし、見下ろすと同時にふたつのことが判明した。ひとつは靴紐はほどけてなどいなかったこと、そしてもうひとつは、声の主がノエルであることだった。ノエル「食らえ、腰抜けー!!!」ノエルの手から放たれた無人の四輪車が私の頭上を通過し、私はやがて訪れる衝撃に備えてひまわりの元へ身体を投げ出した。それまで黒い塊が立っていた場所には半壊した車がトンネルを塞ぐようにして横たわっていた。赫「大丈夫か、ひまわり」腕の中にいるひまわりの安否を確かめる。どうやら大丈夫そうだ。ノエル「お二人とも大丈夫ですか~?」新市街側の入り口から間延びした声と共にノエルが近づいてくる。無事を確認したところでノエルは黒い塊が死んだか否かを調べるため、再び車を持ち上げるが、そこには何もいなかった。
類稀なる一例すっかり寒気が消え、吐血も止んだ。あちこちを触るといまだに激痛が走るが、意識ははっきりとしている。なるの説明によると、今の俺の自己治癒能力は通常人の20倍以上あるらしい。しかしまだ身体がボロボロなのは間違いなかった。そんな俺の姿を見て、なるは一人であのXIIの元に向かっていってしまった。幻装(アーティファクト)という武器を使い、なるはXIIと対峙し、一時は優勢だったものの、XIIに不意を突かれて身動きがとれずに首元に伸びた豪腕が生命を脅かす。もう奥の手を発動するしかないと思っていた私の元に、声が聞こえてくる。声「なるーッ!」と思った矢先に見知った声が割り込み、私はぎりぎりまでガマンすることに決めた。――。なるがこのままでは死んでしまう。そう思った俺は何かないかと辺りを見渡すが、俺の胸に何か刺さっていることに気づく。今日は大小、様々な不思議体験をさせていただいたわけだが、ここまで混沌とした光景を目の当たりにすることになろうとは思わなかった。柄の生え際は、俺の住む世界とは異なる景色をしている。抜くのか、抜かないのか。理由や意味なんかどうでもいい。とにかく見合ったものが目の前にあるんだ。ただそれだけだ。それを手にとって俺はなるに捕まれた豪腕を切り落とし、間一髪なるを救えたのである。そんな俺の姿を見たなるは、俺の武器を見て幻装(アーティファクト)に近いものだというが、その幻装(アーティファクト)は幻ビト(イデア)しか使えないものであり、そしてなると交わした契約(エンゲージ)は幻ビト(イデア)と交わせないものだと認識しているため、困惑していた。失敗にしろ成功にしろ、類稀なる一例だという事だった。謎の多い、幻装(アーティファクト)に近いものを手に入れた俺となるの連携プレイで、再び襲ってきたXIIを倒すことに成功するのであった。
剣咲 ノエル
Hシーン体験版でのHシーンはストーリー中に見れます。剣咲 ノエル→騎乗位、中出し。
ストーリー中二病の大好きな人にかなりオススメできるエロゲーではないでしょうか。その中二病、ファンタジーな世界での各設定もきちんとしており、読めば読むほどこういうものなのかと分かるようになっています。ただの美少女かと思ったのなら人間より遥かに強靭な身体能力を持った幻ビト(イデア)だったり、そんなイデアが使える幻装(アーティファクト)という格好いい武器を使って敵をなぎ払うといった素晴らしい戦闘シーンの一枚絵が見れたりもします。まだまだ謎の多いところがありますが、この調子ならば恐らく製品版でココロさんの謎やら、主人公である優真の力の謎やら等々、全てが語られるのであろうと個人的には思いました。主人公二つの視点で物語が進んでいき、それはやがて一つに交えるものとなっていくのですが、個人的には赫さんの視点での物語りが凄く好みでした。ひまわりと名づけた独りの少女の人間と出会って、まるで家族のように日々を過ごし、少しずつではありますがイデアである赫さんも人間のことを知ることができ、赫さん自身も人間らしさというものに「悪くはない」と思っているシーンもありますし、何より僕自身もプレイしていて、なんだか家族の良さというのを知るシーンがとても多く感じれたように思えます。血は繋がっておりませんけれども、今後も温かい1シーンを見せてくれたらな・・と思うのですが、残念ながらそうもいかないかもしれませんね。というのも、やはり冒頭の1枚絵ですが、ひまわりさんが優真さんの手によってその命を奪われてしまったが故に、さすがの赫さんも怒りますし、自らの手でひまわりを葬るなど、何故そうなってしまったのか、具体的な理由はわかりませんが、結果的にこうなってしまう運命なのかもしれません。そしてこの主人公同士の対決になんの意味があるのだろうかというのも、その主人公達が秘めたる思い、考えによって生み出されたものであり、結果は果たしてどうなるのだろうと気になっています。赫さんも優真さんもそれなりに茨の道を歩んできたが故に、どこか生命、人として理解できない部分もあるかと思われますが、そんな彼らにしか思い浮かばないような未来の行く末を見届けたいなと思うストーリーでしたね。ヒロインたちはモウアレですよ。語るまでもなく可愛いに尽きるでしょう。しいて言えば菜々実 なる (ななみ なる)さんもイデアでありますが、自らの余生を占いやら小説やらに使うといった情熱溢れる女の子であります。いつも元気であるという印象がありますし、その元気が源となってのこの行動力があるのかと思うと、僕自身も少し元気になればもっとうまく記事を書けるのかなと思ってしまいます。紫護 リノンさんも同じくイデアであり、かつて流行ったウイルスと世界の危機に対し、それを救ったアーカイブスクエアの看板アイドルとして活動しております。アイドルと名乗るからにはそれなりに可愛いのだろうかと思い、体験版をプレイしてみると、確かに可愛いです。なんというかアイドルとしてやはり一番欠けてはいけないものって笑顔だと思うのですが、リノンさんは見事、自分のためにきてくれたファンに対し、笑顔を絶やさずにファンと接しているというシーンばかりなので、流石だなぁと思いましたし、いつでも自分のすべきことを大事にしているその姿は尊敬したいとすら思えます。剣咲 ノエルさんもイデアです。赫さんをご主人と呼び、人間社会においての知識がまだ乏しい赫さんに対して、様々なことを教えては赫さんからの信頼は抜群。しかし、時々自分の都合のいいように、赫さんに少しウソをついては赫さんとイチャイチャしようとし始めるので、これはいいキャラだなというのが第一印象でした。真面目すぎないというのがノエルさんのいいところです。冗談の言える人は、大抵人を喜ばせる事に脳を使うか否かをきちんと自分なりに判断している人が多いので、これはいい赫さんの妻になるんじゃないかなと思います。九條 美月さんは、二人の男に迫られているときに赫さんに救われた少女ですが、これまた何というか第一印象が無愛想な感じでした。ドールといったほうが正確に伝わりやすいでしょうか。恐らくフィギュア化したら一番可愛くて目立ちそうなキャラです。しかし赫さんとノエルさんの夫婦漫才を見るなり、少し苦い表情をするので、目的がある時は油断せず頑なに自分のペースを保とうとする真っ直ぐな少女なのであると個人的には思いました。ココロさんは旧市街で、優真さんと出会ってからというもの、最初はあまりコミュニケーションを取れず苦戦していた優真に対し、徐々に口数の多くなっていくという、機械ではなく人間らしさというものが少しではありますが伝わってきたりします。ココロさんが見ているものは何なのだろうかと時々思ってしまうほど、常に目がどこか遠くを見ているかのようなそんな感じです。目的が未だに分からないまま体験版を終えてしまいましたが、よくもまあこんな美少女が誘拐されずに旧市街に留まっていられますね、というのが個人的に一番思ったことでしたね。テキストに関しては主人公に限り下固定の白文字です。他のキャラクターが喋ると、漫画のセリフみたいにテキスト位置が移動します。ゲームの操作性は問題なく、体験版をプレイし終えることができました。しかしながら、最後の映像が流れるまでにスキップを続けていると、稀にゲーム自体が落ちるといった現象がありましたので、製品版では直っていると思いますが、体験版をプレイされる方はその辺注意が必要です。普通にスキップ以外で進めていけば、落ちることもなく体験版の最後に出てくる映像を見ることができます。ストーリーの内容は、全体的に中二要素、家族の良さ、人との繋がりの大切さがわかるような内容でしょうか。赫さんとノエルさんに限りコメディ要素が強いですが、それもまた家族の良さとしてみてもいいかなと思ったので、二つに絞りました。
8,853円